• 2020/07/02

FFAとは

計算式

海運は「運賃が上がれば儲かる」ビジネスですが、実は運賃にも先物市場があり「運賃が下がれば儲かる」という逆張りもできるのです。この運賃先物の取引は業界では「FFA (Forward Freight Agreement) 」と呼ばれています。

参加プレーヤーの紹介

このFFAに参加しているプレーヤーをご紹介しましょう。運賃が上がると儲かるロングポジションには、穀物を輸送する商社や鉄鉱石を扱う資源会社が参加しています。船を使って荷物を輸送する人にとって運賃が上がるのは困ります。そこでFFAのロングポジションを取っておいて、もし運賃が上昇したらその損失をFFAの利益で相殺しようという訳です。

一方、運賃が下がると儲かるショートポジションには船会社が参加しています。船会社にとって運賃が下がるのは当然困ります。そこでFFAのショートポジションを取る事で、運賃が下がった損失をFFAの儲けで補填するのです。

それとは別に第3のプレーヤーがいます。運賃が上がろうが下がろうが関係ない、儲かりさえすれば良い投機家(ファンド)です。実はFFA取引の30%はファンドによるものと言われています。

FFAをやってみましょう!

運賃が大暴落する中、FFAのショートポジションで大儲けできる「出来レース」をやってみたいと思います。

下のグラフはケープサイズバルカー(ケープサイズ)の2019年の運賃推移で、縦軸は1日の傭船料です。15,000ドルで幕を開けた2019年は途端に下降を始め、4月には絶望の3,460ドルまで落ち込みました(ちなみに船会社の採算分岐点は20,000ドルと言われています…)。その後、奇跡の復活を遂げ、9月には夢の38,012ドルを記録するという、なんとも喜怒哀楽の激しい1年でした。

12月3日の運賃は25,202ドルです。9月のピークからはずいぶん落ちましたが、それでもまだ採算分岐以上の高い運賃です。

この日、FFAのブローカーから届いたチャットのスナップショットがこちらです。 

“Jan Cape 18200/18500 “とは、つまり先物市場では来年1月のケープサイズの傭船料が18,200から18,500ドルで取引されているということです。

12月3日 ショートポジション

ブローカーに「1月の先物運賃を18,400ドルで売りたい」と指してみます。FFAは相対取引ですので、取引の相手を見つけないと売買は成約しません。しばらくしてブローカーから「18,375ドルでなら買いたい相手がいる」と返事が来たので即決しました。ブローカーから「何日分の取引をしたいか?」と聞かれるので30日分と答えます。しばらくして相手方も30日分買えるとの事で成約に至りました。

この日「来年1月のケープサイズの運賃を18,375ドルで30日分売った」事になります先物取引をしたことない人には訳がわからなくなりますが、要は来年1月の運賃が18,375ドルより低ければ儲けられる取引をしたということです。あとはひたすら神様に運賃が落ちる事を祈ります(海運業界の人間が言うことではないですが)。

12月3日ポジション
12月3日のポジション January 2020 Capesize T/C, Short position 30 days at $18,375

12月20日 神降臨?〜運賃下がる〜

神への願いが通じたか、12月3日に25,202ドルだった運賃は、3週間で42%ダウンの14,451ドルになりました。

FFA市場では”Jan Cape 12450/12800″で取引されていました。つい3週間前まで18,400ドルで取引されていた1月の予想運賃が「12450〜12,800ドル」まで下がっています。これは市場が悲観的になっている証拠です。

12月3日に18,375ドルで売っている1月の運賃ポジションを、今なら12,625ドルくらいで買い戻せる状態になっています。FFAの素晴らしいところは、いつでも自分のもっているポジションを解消できるところです。1月まで待つのもめんどくさいので、10日分だけ利確してみます。ブローカーに「1月の運賃先物を12,400ドルで10日分買いたい」と問い合わせてみると、すぐに取引相手が見つけて成約しました。18,375ドルで売っておいた運賃を12,400ドルで10日分買い戻したので、「差額5,975 ドル× 10日 = 59,750ドル」の利益確定です。さらにまだ解消していない20日分の先物運賃が115,000ドルの含み益をもったままになっています。

12月20日成約後ポジション
12月20日取引後のポジション

この取引の翌日、FFA取引所から利確した59,750ドルが振り込まれます。

2020年1月31日 審判の日

そもそも「1月の運賃」とは何のことでしょうか?これはバルチック・インデックスという運賃指標の1月の平均値のことです。つまり「1月の運賃」は1月31日に決定します。

そして2020年1月のバルチック・インデックスの平均は、なんと絶望の7,594ドルになりました。

今回は取引の相手を探す必要はありません、FFA取引所によって自動精算されるからです。ちなみにFFA取引所とはアメリカのNASDAQやシンガポールのSGXになります。

解消せずに持っていた残りの20日分の運賃先物も自動精算され215,620ドルの利益が確定しました。このお金は翌2月1日に振り込まれます。今回の出来レースで運賃が大暴落する中で、FFAを通して3000万円近い利益を得ることができました。

1月31日ポジション
1月31日、ケープ1月ポジション精算

保険か博打か

繰り返しになりますが、FFAは相対取引です。儲けた裏側には同じ金額の損失をだしている人がいます。同じFFAの損失でも、実際の海上運賃の利益と相殺しているのであれば「保険」に対する保険料と考えられますが、投機的なFFA投資の損失であれば純粋に「丁半博打」の損失になります。使い方によって、保険にも博打にもなるのがFFAです。

船会社の与信チェックで決算書を精査する際に「Unrealized gain or loss on derivative instruments」で大きな含み損があるのを発見した場合に「変なデリバティブに手を出して大きな損失を出している!」と考えるのはあまりにも短絡的です。ぎゃくにDerivative instruments という項目がない(先物のヘッジをしない)船会社は「実業にしっかり力をいれていて、変な金融商品には手を出さない立派な会社」と言えば聞こえは良いですが、これだけボラティリティーの高い海運マーケットで、運賃の上昇だけでしか成長することができない、運賃のヘッジの仕方すら知らない船会社とも言えるのです。