• 2020/05/05

船の一生(船入門②)

マッチが燃えている画像

前回この10年で18,000隻の船が増えたことについて書きましたが、新しい船が18,000隻建造されたわけではありません。細かい話を大まかな数字で説明しますと、26,500隻の船が新しく建造された一方で、8,500隻くらいの船がスクラップや沈没で減った、差し引きの数が18,000隻なのです。今回は船の一生について見てみましょう。

船はもちろん造船所で建造されます。車や電化製品を製造するようなオートメーション化された工場で大量生産されるのではなく、海に面した露天の敷地で重機と人の手で1隻1隻、受注生産されます。造船所は中国、韓国、日本に何社もあり、この3カ国の造船所でほぼ全ての船が建造されていると言っても過言ではありません。

造船各社はそれぞれ得意な船というものがあります。船を発注したい人(このコラムでは船主とします)は価格、支払条件、引渡し時期といった諸条件を造船所と合意して建造契約を締結します。それから造船所は資材の発注を始めるので船の完成には最低でも1年はかかります。多くの発注をもらっている造船所だと船の引渡しまで3〜4年待たないといけない事もありますが、逆に完成前に船主が他の船主に転売する事もできます。

進水式 船の新造の図
船の引き渡し

さて、いよいよ船が完成して船主に引き渡される日です。余談になりますが船は「女性」です。日本語で会話する場合には滅多に意識する事はありませんが、英語で話す際の船の3人称は She やHer になります。引渡しの日はまさに娘が誕生した気分になることでしょう。

船主とは船に投資する投資家です。国別でいうとギリシャ、日本、中国、ドイツ、アメリカ、ノルウェー、シンガポールの船主が有名です。なぜギリシャを最初に出したのかというと、海運の世界では圧倒的に存在感をもっている船主大国だからです。ギリシャ、ドイツ、ノルウェーは海運の歴史が深いのですが、ギリシャはさらに船主業が無税という大きなアドバンテージを持っています。ドイツとノルウェーはKGシステム、KSシステムという投資組合スキームがあり、裾野の広い投資家層が船に投資できる環境があります。シンガポールも国の海運誘致政策の一環で無税のインセンティブがありますが、多くが国外から拠点を移してきた海外船主がシンガポールに拠点を置いているだけという特徴があります。アメリカはウォール・ストリートの上場企業やファンドの存在感が大きい特徴があります。中国はつい10年前まで番外にいながら一気にシェア2位に登りつめた成長著しい国です。最後に我らが日本も船主としてかなりの存在感があります。

また余談になりますが、船主の中には造船所が自ら船主となる事もありますし、金融機関が実質的な船主になる事もあります。

船の存在価値は貨物を輸送することで、運航することによって運用収益をあげることができます。A地点からB地点まで決められた貨物を輸送して運賃をもらう運航契約だけでなく、一定期間に一定量の貨物を輸送する数量契約COA(Contract of Affreightment) や、1日あたりのレンタル料と期間を決めて貸し出す傭船契約、他にも複数の船主が船を出し合って集団で運航し合計収益を参加者が分配するプールシステムなど様々は運用方法があります。

荷役の図

船主が1隻の船を建造からスクラップまで生涯所有する事は稀で、多くの場合、あるタイミングで船を売却します。中古船の売買市場は活発で十分な流動性があり、2019年には1300件ほどの中古売買が成約しています。ただ船の中古価格はかなり上下するボラティリティが高いマーケットでタイミングよく高値で売却できれば莫大な売却利益を得る事ができますが、一方で運航の収益が常時赤字で致し方なく売却するケースや、金融機関に強要されて売却するといったケースでは損切り売却して大きな損害を被る事もあります(ただしそういった損切り売却の船を買った側は安値で仕入れた事になるので大儲けになります)。

さて、そんな運航と売却を繰り返す事、30年。いよいよ最後は鉄くずとしてスクラップされ船は一生を終えます。スクラップはインド、バングラデシュ、パキスタンでほぼ全ての船がスクラップにされています。船から取れるのは鉄だけではなく、ケーブルからは銅、プロペラからブロンズ、窓枠からアルミニウム、ステンレスパイプと、まさに捨てる所がない鯨の解体さながらです。近年では環境配慮型のスクラップヤードもインドで誕生しています。

                                                                                                                                                今回のコラムの専門用語とキーワード

  • ① 専造船は中国、韓国、日本
  • ② 船主はギリシャ、日本、中国、ドイツ、アメリカ、ノルウェー、シンガポール
  • ③ スクラップはインド、バングラデシュ、パキスタン
  • ④ 船の平均寿命はだいたい30年