• 2020/04/13

起業家コロンブスの苦悩 (前編)

コロンブス

大航海時代前、インドネシアの香辛料はインド、イスラム圏、地中海と非常に多くの商人の手を渡って、ようやく、少量のみ、ヨーロッパに到着していた。その過程で当然、輸送費、国ごとの関税や港湾料、商人の利益が上乗せされるので、ヨーロッパに到着する頃には、金よりも高価な品物になっていた。産地直送の手段を手に入れれば莫大な利益が得られると誰しもが思うだろう。純粋に利益を追い求める商人のみならず、国王もそんな権益を夢見た…。当時ヨーロッパ中の王室は財政難にあえいでいたのだ。

大航海時代前の香辛料貿易ルート
大航海時代前の香辛料貿易航路

15世紀、おぼろげではあるが、既存のアラビア〜地中海の交易ルートとは別に、南の海、アフリカを経由してアジアに行けそうな話はあった。だが、だれも確信する者はいない、だれも実践していない、あくまでもおぼろげな状態なのだ。

クリストファー・コロンブス
クリストファー・コロンブス (Christopher Columbus)

そのような時代に、クリストファー・コロンブス (Christopher Columbus) は、自身の航海での体験と、その中で出会った人々との議論や書物から、①地球は丸く②南に行くよりも西に航海すれば東(インド)に早くたどり着けるのでは?というユニークな理論を持つに至った。この頃すでに地球は平面ではなく球体ではという議論が広くあったので、地球が丸いというポイントは大してユニークではなく、「西に航海すれば最短で東にたどり着ける」という部分がコロンブスのユニークな部分だった。

情熱に燃えるコロンブスは1480年頃、いよいよ行動をおこす事にした。夢を叶えるには「お金」が必要〜出資者集めという航海の始まりである。

出資者というと、まずは商人や投資家を考えるのが普通だが、コロンブスは初めから王室を説得する方針を取った。そもそもコロンブスの計画は、商人や投資家にとってリスクとリターンが見合っておらず、彼らが出資する見込は薄かった。だがそれ以上に成功した後のことを考えると王室からの出資にこだわる理由がコロンブスにはあった。

発起人である以上、コロンブスは人生を捧げてきたと言っても過言ではない理論を、船長として自らの命をかけて実行するのだ。もし西回り航路の発見が世間に伝わった瞬間から、2番煎じの商人や投資家どもが我も我もと続き、苦労もせず漁夫の利を得るような事態になったらどうだろう?「そんな事は絶対に許せない。長い年月かけて研究し、命をかけて開拓したのは自分だ。その苦労に見合う利益を恒久的に得られる特権を手に入れなければいけない」コロンブスはそんな先の事まで考えて「特権」を出せる国王からの出資にこだわった。それともう一つ、国王が出資する場合、金銭的な理由以外に宗教上の興味を引くことが期待できた。彼の王室への提案にはいつも宗教的な理由も含まれていたがこのコラムでは割愛する。

コロンブスの王室への要望は全部で3つ

  • ① 船3隻を準備するだけの資金援助
  • ② 自分が西回りで発見した国では、自分とその子孫が代々その土地の提督・統治者となる事
  • ③ 発見した国から得られる全ての利益の10%は、恒久的にコロンブスの取り分とする事

ポルトガル王室に謁見

ポルトガル王 ジョアン2世
ジョアン2世 (Jhon II)

コロンブスは、1484年ポルトガルのジョアン2世 (Jhon II) に謁見する事が許された。熱意だけで資金援助が得られるほど、世の中は甘くない。彼は論理的にも説明しないといけなかった。

まず地球は球体である前提に立ち、360度の角度のうち「ヨーロッパ〜アジア大陸」は225度を占めている。つまり残りの135度が大西洋だ。700年も昔のアラビアの学者アルフラガヌス (Alfraganus) が書いた書物から地球1度の距離は 「56マイルと2/3」と見積もった。つまり地球の大きさは360度×56マイル2/3 = 20,400マイルという事になる。この「マイル」という単位が実に厄介だった。現在一般的に使われる1マイルは 1,609mだが、船の世界で使うマイルは Nautical Mileといって1マイル1,852mだ。しかしアルフラガヌスが使っていたのは Arabic Mileで、よくは分かっていないが1,800mから2,000mの距離であった。20,400マイル×2,000m = 40,800km 〜 これは現在知られている地球の大きさとほぼ同じで、アルフラガヌスの計算がいかに正確だったか驚かされる。

ところがコロンブスはこの「マイル」をイタリアマイル=1,238mで計算していた。20,400マイル×1,238m = 25,255kmと地球の大きさを凄まじく小さく見積もったのだった。

「数学的根拠」にも裏付けされたコロンブスの熱弁にジョアン2世は興味を見せた。そこで正式にコロンブスの提案を海事委員会に検討させることにしたが、返ってきた委員会の結論は「不採用の勧め」であった。「地球が丸いという主張は馬鹿げている」といった理由ではなく、「コロンブスは地球の大きさを小さく見積もり過ぎている」と至極正しい指摘だった。結局、ジョアン2世はコロンブスに出資することを見合わせた。

後にスペイン王室から資金を得てアメリカ大陸(正確には大陸ではないが)を発見するコロンブスに出資しなかったポルトガル王室を先見性が無いと考える人もいるだろう。しかしポルトガル王室は真っ当な投資判断をしている。もしアメリカ大陸が存在しなければ、地球の大きさを見誤ったコロンブス一団は東にたどり着くことなく全滅していた。たまたまその途中にアメリカ大陸があったので助かっただけだの話なのだ。

さて、ポルトガル王室からの資金集めを断念せざるを得なかったコロンブスだが、しかし彼の熱意は絶えることがなく次の行動に移ることになる。【後編へ】