• 2021/03/18

船にまつわる法律(船入門⑤)

弊社自慢のコンテナ船「トラスト丸(架空)」に登場してもらいましょう。トラスト丸は、オーシャントラスト がマーシャル諸島共和国に設立した100%子会社(SPC)名義で所有するマーシャル諸島船籍のコンテナ船です。前回の船入門コラムでも説明しましたが、弊社は税金を払いたくないからマーシャル諸島船籍にしているわけではありません。何かと登録や管理が簡単・便利だからなので誤解のないように(詳しくは「船の国籍(船入門④)」を!)。

いまトラスト丸はアメリカ西海岸から日本に向けて太平洋のど真ん中を航行中です。海は全人類の財産です。どこかの国に属するものでもありませんから、航行するのに誰かの了承を得る必要はありません。ここはどこの国の法律も適用されず、警察も裁判所もない、規制なき自由な場所なのでしょうか?

もし何の規制もなければ、原油流出の事故を起こしてもそのまま放ったらかされ、放射能廃棄物などの産業廃棄物は海に投機され、海は取り返しもないほどに汚染されるでしょう。船上では盗みを働いても、殺人しても咎められず、テンピン賭け麻雀やり放題の世紀末状態になってしまいます。

海の秩序は、どのようにして保たれているのでしょう。

まずトラスト丸の船中では、マーシャル諸島共和国の司法権が及んでいます。本船はマーシャル諸島船籍で、船にはマーシャル共和国の国旗を掲げています。つまりトラスト丸は太平洋のど真ん中を移動するマーシャル諸島共和国の島の1つと言うわけです。同様に日本船籍の船には日本の司法権が、アメリカ船籍の船にはアメリカの司法権が及んでいます。

船の外はどうでしょう。海は全人類の財産とはいえ、管理者を明確にしないのは流石に無責任です。そこで国連は「海洋法国連条約 United Nations Conventions of the Law of the Sea (略してUNCLOS)」で海の権利関係を明らかにしています。

海洋法によると海は下の図のように区分けされています。

①東京湾や江戸川河口といった場所は説明するまでもなく「日本」です。ここは「内水 (ないすい、Internal Water)」と言って、文句なしに日本の司法権下にある海です。

日本の陸地と海の境界線を「基線 (Base Line)」と呼びます。満潮や干潮で境界線が変わりますが、Base Lineは干潮時の境界線を採用しています。

②基線から12海里(約22キロ)までを「領海 (Territorial Sea)」と言って、自国の領土同然の扱いが認められています。海上だけでなく、海中、海底、さらに上空まで日本の主権が及びます。

③領海の先12海里、基線から24海里(約44キロ)の沖までを「接続水域(Contiguous Zone)」と呼びます。ここは日本の領域に接続している海ということで、完全な主権は認められていませんが、通関 (Custom)、財政 (Fiscal)   出入国管理 (Immigration)、公衆衛生 (Sanitary Law)に関して日本の管轄権が認められた海域になります。

④基線から200海里(約370キロ)までは「排他的経済水域(Exclusive Economic Zone 略してEEZ)」と言います。この海域の海上は全人類が好きに使うことができますが、海底に限って日本は、天然資源の調査や開発に関する権利を有しています。

⑤そして最後に「公海(High Sea)」です。ここは名前の通り海底も含めて誰の主権も管轄権もおよばない海です。

IMOによる様々な条約

しかし、この区割りだと領海内は日本の司法でしっかりと管理されそうですが、それ以外の海域はかなりやりたい放題になってしまいそうですよね。

そう言った無責任な状況にならないよう、国連の機関である「国際海事機関(International Maritime Organization 略してIMO)」が、すべての海域で適用される様々なルールを条約という形で決めています。IMOによって採択された条約の一例を挙げてみますと:

  1. 1. 海上における人命の安全のための条約 (SOLAS条約)
  2. 2. 航行の安全に対する不法な行為を防止する条約 (SUA条約)
  3. 3. 汚染防止のための条約 (MARPOL条約)
  4. 4. 油による海水汚濁防止のための条約 (OILPOL条約)
  5. 5. 油による汚染損害についての民事責任に関する条約 (CLC条約)
  6. 6. 燃料油による汚染損害についての民事責任に関する条約 (BUNKER条約)
  7. 7. 海上における捜索および救助に関する条約 (SALVAGE条約)
  8. 8. 残骸物の撤去に関する条約 (WRECK REMOVAL条約)
  9. 9. 核物質の海上輸送における民事責任に関する条約 (NUCLEAR条約)

といった具合です。

このように海の世界では基本的に ①船籍国の法律 ②領海に属する国の法律 ③IMOによる条約 によって秩序が保たれているわけです。(実際には法律や規制がまたがっていたり、ブラックリスト的な船籍国が存在したり、領海の境界線で揉めていたり、IMOの条約に批准しない国がいたりと複雑ですが)。

さて、今回のコラムは全人類の財産である「海」の利用についての法律でしたが、次回は船の商売・契約に関しての法律「海事法 (Maritime Law)」について話したいと思います。

蛭田将司

2021年3月18日