• 2020/11/16

GERMAN KG ② 隆盛そして凋落

「諸行無常の響きあり」

平家物語の冒頭に出てくる言葉です。この世に不変というものは存在せず、常に変わり続けていく様を表す言葉です。「平家にあらずんば人にあらず」と言わしめ永遠に繁栄するかと思われた平家も、壇ノ浦であっけなく滅びるのです。今回はジャーマンKGの隆盛と凋落についてのコラムです。

ジャーマンKGの隆盛期 

1999年、ドイツの海運税制が法人税からトン税に変更されました。トン税とは海運会社の収益に関係なく、所有する船のトン数に応じて定額の税金を払えば良いという税制です。例えば年間に億円単位で利益を上げていた6,000個積みのコンテナ船でも、20,000ユーロ(約250万円)程度のトン税で済みます。一般の人だと250万円も高く感じるかもしれませんが、船のビジネススケールを考えるとこの税金は「実質無税」と言って良いも過言ではありません。

2000年の税制改正で特別償却の恩恵が減らされ、ジャーマンKGは「償却メリット」と「トン税メリット」の良いところをとる複合モデル(Combi Model)に変質しました。すなわち最初の2年間で目一杯の償却を取って投資家に税メリットを提供しつつ、その後はトン税による実質無税の収益メリットを提供するモデルです。

2005年にさらなる税制改革が行われ、ジャーマンKGは償却メリットを投資家に提供する事ができなくなりました。しかしこの頃、すでにトン税による純粋な利益追求型の投資ファンドを確立していたジャーマンKGから投資家が離れる事はありませんでした。償還を迎えたジャーマンKGの平均リターンは8.6%だったと言われています。特にリターンの大きかったTOP 25のファンドの平均利益率は18%近くあったそうです。株や不動産投資の投資組合の場合と比べて、トン税のおかげで税金が圧倒的に低いという魅力が船舶投資にあり、2007年単年だけでも35億ユーロ(当時の為替で約5250億円)ものお金がジャーマンKGを通して船舶業界に投資され、投資総額は300億ユーロ(約4.5兆円)に達しいたとも言われています。

2008年の1年間にドイツ船主(ジャーマンKGも船主に数えられます)に引き渡された新造船は1,100万DWTでしたが、これはギリシャ、日本に続く第3位で、そのほとんどがコンテナ船です。上の表はジャーマンKGの投資先の内訳を示したものですが、多目的船(MPP)も含めたコンテナ船類への投資は実に76%に達しています。

筆者は2004年から2007年までシンガポールのコンテナ傭船ブローカーとして働いていました。当時ドイツ人船主は王様の様な存在で、まさに繁栄の絶頂にいたのは確かです。世界のコンテナ船の実に80%はドイツ人のものと教えられていましたが、今回のコラムを通して実際は20%程度のシェアだったと知り少し憤っていますが、確かに当時の商談のほぼ全てがドイツ船主(KG)によるものだったので、80%と言われて違和感は全くありませんでした。

リーマンショックという爆弾

ジャーマンKGは投資家の資金と銀行の融資で新造船を発注します。融資は投資家やジャーマンKGの与信に頼らない、いわゆるストラクチャード・アセットファイナンスでした。ジャーマンKGは船会社と5年程度の定期傭船契約を締結する事で、投資家には「安定的な収益」、銀行には「融資期間中の返済計画」の絵を描く事ができました。傭船契約が終了する5年後に中古船として売却するか、新たな定期傭船を再締結する事でアップサイドを狙う事業計画になっています。つまりマーケットが下がれはアップサイドどころか返済も滞るリスクが存在する訳ですが、投資家が船価の30〜50%もの劣後する資金を入れてくれているおかげで、銀行にとって船価の70〜50%という「超安全な掛目」な融資で問題になる事はないという整理でした。ちなみに当時、日本の銀行は船価の100%〜110%の融資をしてくれていました。

2008年、空襲警報もない中、突如リーマンショック爆弾が投下される事になります。今年、航空業界にコロナ爆弾が投下されたのと同じくらいのインパクトだったと言えば少しは当時の絶望感を共有していただけるかもしれません。ピーク時には1日あたりの4万5000ドルあった3000TEU型コンテナ船の傭船料も2009年には5000ドル台まで大暴落します。

ただ5年の定期傭船契約を結んでいたおかげで問題はすぐには具現化しませんでした。船会社もそれまでの好景気で相当に蓄えがあったので、契約通りに高い傭船料を支払い続ける事ができました。

船会社が約束通り傭船料を払ってくれていたおかげで、とりあえず返済ができていたジャーマンKGですが、市場悪化による船価暴落によって「船価維持条項(Value Clause)」のコベナンツに引っかかる事で銀行と問題を抱えていました。「足下は異常な市況で、売りたい人間と買いたい人間双方が本心から合意した売買事例がない、よって直近の売買事例は無視して、本心から合意できる市況を想定した価格で船価鑑定書を出そう」という滅茶苦茶な議論まで出る始末でした。

ドイツの銀行の船舶融資残高の推移

問題を先延ばしできても5年、、、この5年の間になんとか回復してほしいという海運関係者の祈りも虚しく、定期傭船契約が終了した順に窮地に落とされます。投資家の出資金どころか融資の残債すら返せない中古船価格で「売るに売れず」、再傭船しようにも絶望的な足下の傭船料では「続けるに続けられず」です。個別のケースの説明は差し控えますが、兎にも角にもジャーマンKGは様々な形で終焉をむかえ、最終的に絶滅しました。上のグラフはヨーロッパの銀行の船舶融資残高の推移を国別にまとめたものです。中央にそびえ立つドイツの銀行の圧倒的な凋落ぶりが一目瞭然です。

復活なるかジャーマンKG

去年、ドイツではインターネット上で投資家を募集するクラウドKGファンドが立ち上がりました。また別のコラムで説明したいと思いますが、ジャーマンKGの失敗の本質は、船舶投資の本質にも関わる大きな失敗でした。前回の失敗をよく分析して同じ間違いをとらない形になっているか、はたまた同じ事を繰り返すだけなのか、今後の展開を大いに楽しみにしています。

蛭田将司

2020年11月16日