• 2020/08/04

ドライな船(船入門③)

過去2回の船入門では船舶業界の全体を掴むお話をしてきましたが、今回はマクロからミクロに移ったお話をしてみたいと思います。船はまず大きく分けて「物を輸送することを目的とした船」と「輸送以外を目的とした船」に分ける事ができます。

「物を輸送する船」は、輸送する物によってさらに細かく分類する事ができます。

  • ① 固形物の貨物(DRY CARGO)を運ぶ船 
  • ② 液体の貨物(WET CARGO)を運ぶ船
  • ③ 人を運ぶ船(客船類)

今回は、DRY CARGO、いわゆる固形物の貨物を輸送する船についてになります。まずは下の動画をご覧ください。

船の基本:ばら積み船

動画の最初に紹介した「ばら積み船」は、一般的にバルカー(Bulker)と呼ばれ、まさに船舶の代表選手のような存在です。バルカーは世界で一番建造されている種類の船で、日本の造船所が受注している新造船の実に半分がバルカーです(隻数ベース2020年7月現在)。

日本で最も建造されているバルカーは、日本の船主と銀行が大好きな船型です。数が多いだけに中古船の売買事例が圧倒的に多く、売りたい時にすぐ買い手が見つかる流動性があります。運賃の推移も日経平均のようにインデックス化されていて(バルチック・インデックス)投融資する人間にとっては、とても入りやすい船になっています。一方で、動画の中で紹介した、重量物運搬船、自動車運搬船、冷蔵船、家畜運搬船といった船は、建造数が少ない、流動性は低い、運賃指標がないので価格・運賃の市況感が把握できない、といった理由から、よく「特殊船」というジャンルに整理され船主や銀行から敬遠されたりします。

これから船に投資しようと考えている人は、ここまで聞くとバルカーの投資が良く聞こえるかもしれませんが、そこにはリスクも潜んでいます。流動性が高い投資対象というのは、投機の対象にもなるという点です。

本来、船は使用する目的があって初めて造船所に発注されるべきものです。それにより需要と供給のバランスは保たれ、安定的な運賃と中古市場が形成されるのです。しかし、バルカーはその理想から大きくかけ離れています。使う目的もなく船は発注され、運賃の安定化が不可能なほどに世界はバルカーで溢れかえってしまいました。行き過ぎた流動性は、激しいボラティリティーを生みます。下の図はケープサイズ バルカーの過去3年のインデックスです。1日あたりの平均運賃は、驚きの下はマイナス435ドル(2月に初めてマイナスになりました)から上は30,000ドルまで、心電図のごとく鼓動しています。この運賃の乱高下はもはや為替や株の値動きと何ら変わりません。

船の投資を初めて検討される方は、素直にバルカーが投機商品ということに納得してもらえるかと思います。しかし船に携わっている人間は、なかなかその現実を受け入れることができません。いまだに今後の運賃を「船の数と荷物の量」から長期予想し、船価が高い時(運賃が高い時)に最も銀行の融資が受け易い環境が整うモデルのままです。結果として「海運のプロ」であるはず船会社は近年、バルカー投資で大きな損失を出しています。

こう聞くと、今度はバルカーに投資するのは危険だと思われますか?決してそんなことはありません。投機的な船には投機的な投資手法、特殊船には特殊船なりの投資手法というものがあります。バルカーが「投機商品」と割り切れることができれば、単に安い時に船を購入して、マーケットが瞬間的にでも上がった時にすぐ売却できるよう長期の傭船契約をしなければ、特殊船では絶対に実現できない夢のリターンを得ることも十分可能です。ただ言うは易く行うは難しなのもまた事実です。

蛭田将司

2020年8月4日