• 2020/09/18

GERMAN KG ①生い立ちと仕組み

ジャーマンシェパード、ジャーマンクラフトビールのように「ジャーマン(German)」という前置詞には「威厳」や「尊厳」を感じさせられます。ポテトサラダも「ジャーマンポテトサラダ」になると一線を画す存在になります。 

さて今回のコラムはドイツの「German KG」についてです。まだ日本では一般の人が船に投資できる環境はありませんが、ドイツではこのGerman KGのおかげで船舶投資が大変身近な存在になっています。

KGの誕生と仕組み

第二次世界大戦の敗戦によって、ドイツ国内の産業は壊滅的に破壊されました。設備投資資金の調達が困難を極める中、ドイツ政府は大幅な特別償却や税負担軽減を認め、企業の自己資本が活用されるよう投資促進を図ってきました。戦争でほとんどの商船を喪失した海運でも、数人の起業家たちが共同で出資して船を建造する方法で復興の狼煙をあげていましたが、すでに18世紀頃から数名のドイツ商人が出資し合って船を建造する商習慣があったので抵抗のない出資形態だったのかもしれません。

その後ドイツは「経済の奇跡」と呼ばれる急速な経済の回復を実現し、海運ビジネスも一部の起業家たちによる出資サークルから、銀行融資の活用や、広い投資家層からの出資など資金調達に多様性が出てきます。

「資金は出すが、運営には関与したくない」投資家にとって、船舶投資から発生する無限リスクからどう身を守るかは重要な問題で、それを解決したのが投資組合Kommanditgesellschaftthus(通称KG)でした。まず「1隻の船の所有と運航」だけを事業目的とする有限責任会社(GmbH)を設立して事業の営業者(運営者)とします。そして営業者が掲げる事業内容(投資案件)に納得した投資家は投資組合の組合員として出資します。この場合、営業者は事業の遂行者として無限責任を負う一方、出資するだけの組合員は有限責任となり、これによってはじめて投資家は安心して船舶投資にお金を出すことができるようになりました。

KGのスキーム

このスキームはいわゆる「クローズド・エンド型ファンド」で、事業開始後に新たな投資家を募ることはありません。

投資家は必要な資金の30%〜50%程度を出資して、残りの50%〜70%は銀行の融資によって調達されます。銀行は事業が失敗して営業者が返済不能なった場合、船を売却(競売)して融資の回収することを前提とした、いわゆるアセットファイナンス(ノン・リコース)をします。。

ちなみに営業者は前述の通り個別の船舶投資だけを目的に設立された特別目的会社(SPC)ですから、船を売却して事業が終了(投資組合の終了)した時点で解散します。

税メリット

KGは大変に良くできたスキームで、投資家は船舶投資のリスクは有限責任によって守られる一方で、財務損益の損失は無限に取り込むことができました。

ドイツでは船舶の償却は12年ですが、政府による投資促進政策によって、新造船を発注した場合はさらに40%の特別減価償却を最初の5年で計上することが認められていました。つまり通常の償却費と合わせると実に新造船価の82%もの減価償却費が経費として計上できたのです。たとえば50億円の船を購入したとすると、最初の5年で41億円の減価償却費となり、投資事業は大きな赤字を出すことになります。(赤字といっても会計上の赤字でキャッシュフローは黒字です)

会計上の損失を出す船舶投資は弁護士や歯医者といったドイツ国内の裕福層を引きつける投資商品になりました。投資組合の場合、納税義務者は営業者ではなく各投資家になるので、前述の巨大な損失も弁護士個人の損失となり、弁護士報酬と相殺して納税額を小さくする事ができたからです。

この行きすぎた特別減価償却は2度の改定を経て徐々に見直され、2005年の改定で税メリットは完全になくなります。コラム German KG②では「節税の投資」から「利回りの投資」に変貌を遂げていったKGが「世界のコンテナ船の半分はGerman KGのもの」と言わしめるほど繁栄し、そして衰退していく話になります。

蛭田将司

2020年9月18日